随筆『観光客の来ない島のふるさと市』
 第十一話でも書きましたが。ここ、小呂島には、まず観光客が訪れることはない。
それは、@宿がない。A渡船が必ず出航するという保障はない。(つまり姪浜へもど
れない。)B購買店が一軒あるが、夕方6時には閉まる。C水は超貴重品。
 そんな都会から一見隔絶した福岡市西区小呂島に育つ子ども達に、何とか『生き
る力』を、と先生方は頭を悩ませている。まず、『生きる力』とはなんぞや?というとこ
ろから先生方の議論はスタートした。
 @博多の町へ出ても、自分の考えを堂々と主張できる子。Aそのための表現力お
よびコミュニケーション能力をと、 へき地校の抱える悩みは結局はこの辺りに行き
着く。では、どうやってこれらの力をわずか15名(小・中学校合わせて)極小集団で
養うことができるのか。悩みは次から次へとつきることはない。しかし、案ずるより生
むが・・・・ということで、まず行動を起こそう、起こさせようということになった。その具
体策の一つとして、観光客の来ない港で市場(いちば)を子ども達に計画させて大声
で「いらっしゃーい。」「ありがとうございまーす。」を言わせてみようという試みである。
 授業のスタートは、小中学校児童生徒全員参加(本校では1年生から9年生と呼ん
でいる)による「島の名産品を知る」会議である。
 6年生の児童会長と9年生の生徒会長が議長と副議長を務めた。司会の言葉に、は
じめ子ども達は「島の名産品って何かいな?」「そげんことあるかいな?」とあまりピン
と来ない気乗りしない様子だった。長い沈黙の後、あるひとりの子が「お母さんの作る
カマボコ!」と言った。そうすると、ほかの子がつられて「あっ、そげんとでいいと?そん
ならアジの干物もいいっちゃない?」「なら、サザエご飯もおいしいよ。」「小呂島のムラ
サキ芋」「小呂たまねぎ」「ブリのてり焼き」「イカの一夜干し」等々、次から次へと名産品
候補が挙がってきた。そして、これらを自分たちで作ってみて、港でお店を開こうという
ところまで発展していった。
 観光客も来ない島の港で市(いち)を開こうというのだから、土台無理な話、大損するこ
とは、見えているのだが、子ども達はそんな我々の心配にはお構いなく話はどんどん進ん
でいった。しかし、こんなに子ども達の目が輝いたのを見たのもこれまでにはなかった。
 売る品物が決まると、販売日決め、係り分担、作り方を習うための時間割作り、地域の
おじいちゃんおばあちゃん父さん母さんを総動員して名産品作りの方法を習う段取り等
大忙しの数週間が過ぎていった。にわかゲストティーチャーとなってくれた地域や保護者
の方々も、漁が休みの日は快く学校に出向いて、手取り足取り、魚さばきから、みりんの
かけかたなど丁寧に教えてくれた。はじめは上手くさばけず、とても売り物にならないアジ
の開きが出来ていたが、それも何匹か扱う内にどうやら売り物になりそうなものへと変わっ
ていった。魚はいっぱいある。子ども達の失敗にも、気長に待つ漁師さんの指導に我々
教師も多くのことを学んだ。
 さて、いよいよ販売当日。観光客は誰も来ない。しかし、丁度良いことに、今小呂の港は
拡張工事があっており、そこに来てある工事関係者の方々が集まってきて下さった。
 「いらっしゃい」がはしめ小声だったが、売れはじめるとどんどん大きくなっていった。
島外の人にはめずらしさもあってか、特にサザエご飯は、あっという間に売り切れた。
 「ありがとうございまーーす。」完売の声は満面の笑みの中にあった。子ども達の
この市に名付けた名は、『小呂ふるさと市』子ども達はまた来年も計画を立てているらしい。
 生き生きとした姿をまた見たいものだ。
完売におもわず「バンザーーーイ!」